
火星は行動原理や社会における突破力などを表します。今回は具体的にテスラの人生で天秤座火星がどのように使われていたのかを見てみましょう。
まず火星に関与しているのは、太陽とその傍らにいる金星で90度を形成。太陽/火星の反目、金星/火星の反目があるわけです。太陽/火星が調和していないと、時に目的とする方向から大きく逸脱する行動をとってしまったり、行く手に障害が現れて遠回りをしたりしがちになりますが、それを象徴するエピソードがあります。
テスラが電気の研究に進みたいと伝えると、息子に聖職を継がせたいと考えていた両親の猛反対にあいます。太陽と火星は5つある個人天体のうち、男性的資質を受け持つのですが、この二つが対立すると男性と対立しやすくなりますし、個人(または組織)の目的やプロジェクトに対する障害が出てくることになります。
テスラはセルビア正教会の司祭の家に生まれています。蟹座は家庭や伝統を象徴しますから、その家庭の権威である父の意向に沿わない進路と言う形で天秤座火星が対立します。また、太陽は父親を象徴するケースも多く、テスラの父ミルティン自身も軍人を嫌って聖職者になったという背景を持っています。
このような父との対立の他にも、テスラは太陽/火星の対立によって多くの挫折や失敗・中断を経験しています。
●グラーツの工科大学に進学するも、国境地帯をめぐる政治情勢の変化で奨学金が廃止され、失意のうちに帰郷。自暴自棄な日々を過ごすが、両親の励ましによりまもなく立ち直り、父の勧めでチェコの名門プラハ大学へ進学。
●アメリカで発明された電話が、エジソン社の手でヨーロッパにも敷設され、候補地の一つが隣国ハンガリー首都ブタペストだと聞きつけ、勇み足で現地の状況も確認せず列車に飛び乗る。ブタペストで早速電話局に出かけていくが、この時点では事業そのものがまだ検討段階だった。
●ブタペスト時代、テスラは日に5時間しか休まず、睡眠時間は2時間のみ。残りはすべて仕事にあてた。その代償として、まもなく重度の精神的病に侵され、仕事を中断するはめに陥った。
●無線操縦ボートの公開実験で、水槽狭しと走り回る魔法のボートと遠隔操縦される自動人形が身ぶり手ぶりで質問に答えて観客を驚かせた。この実験では現代に通じる①無線通信 ②ラジオコントロール ③遠隔制御技術が披露されたが、当時その先進性を理解する者はおらず大衆は愉快な見世物に熱狂するだけで科学者やジャーナリストもよくできたオモチャ程度の認識しかなかった。また、エンターテイメント的に無線操縦を強調しすぎて無線通信の完成を示す歴史的実験の意味がぼやけてしまい、発明者をめぐる長く無用な争いを招く一因となった。
テスラの場合、隣り合わせの太陽と金星に対し、火星と月(出生時間が不明なのでおよそですが)が反目しているので、行動だけでなく本来の意図と違った方向に行ってしまうというのはよくある流れだったでしょう。
時に迷走気味な火星も、天王星と144度で関連しています。それは自分らしく生きる喜びがテーマで、創造性や独自の才能を生かし周囲をアッと驚かせ、次のチャンスにつなげます。テスラのなかなか茶目っ気のあるエピソードを見てみましょう。
●シカゴ万国博覧会で交流機械や最新の高周波装置、放電照明など数々の発明品を展示、さらに18番のスペクタクルな放電実験で観衆を魅了。とりわけ人気を博したのが「コロンブスの卵」。円形の回転台とその上に置かれた金属製の卵が、スイッチが入ると回転しながらすっくと立ち上がり、そのまま倒れずに回転し続けた。この科学マジックは博覧会で大人気となり、だれもが仕掛けを知りたがった。
●高周波交流現象の原理とその応用可能性について講演会で情熱的に語ったのち、片手でガラス管を手に取り、反対の手で高圧電源に接続された端末を握ると、会場からは悲鳴のような声が上がった。驚きは専門家ほど大きかったが、テスラは涼しい顔で端末を握り続ける。まもなく手にしたガラス管がまぶしく輝き出すと、その光の剣をゆっくりと移動させていき、続いて同じ電流で金属棒を融かし、鍋の円盤を破壊して聴衆の度肝を抜いた。
平凡な日常性を表す蟹座に対し、90度の位置にある天秤座は非日常的なものや華やかな社交を持ち込みます。テスラの火星はそういったエンターテイメント性が感じられますね。天秤座火星には対人関係におけるスタイリッシュな行動美学がありますが、テスラの恋愛観はどうだったのでしょうか。その火星は太陽・金星と反目していますから、人気はあれどちょっと波乱含みです。
社会的成功を手にしたテスラがいくら断っても、若さ、容姿、才能、名声のすべてを備えた発明の英雄をパーティ好きな連中が放っておくわけもなく、ニューヨーク社交界は、久しぶりの大物新人を表舞台に引き出すべくあの手この手の誘いをかけました。ひときわ目だつ長身、緩やかに波打つ漆黒の髪、浅黒く引き締まった顔、そして優雅な着こなし。静かで控えめなマナーは、どことなくヨーロッパの香りを感じさせ、その背後には電気の未来を切り開く天才的な精神が秘められている・・・これほどの若い科学者に若い娘たちが興味を抱かない訳がありません。金融王J・P・モルガンの三女で、後に女性参政権運動で活躍するアン・モルガンはテスラに積極的攻勢をかける女性の一人ですが、テスラがアン・モルガンに対して社交以上の関心に応えることはありませんでした。
もっとも、彼に女性関係の噂がまったくなかったわけではなく、若き日に会った二人の女性に対してはテスラの態度もいささか違っていたようです。
そのうち一人は学生時代にゴスピチで知り合ったアンナという女性で、テスラは晩年、ある記者に自分は女性と関係をもったことはないが、彼女とは一生でただ一度の恋をしたと語っています。
もう一人は彼が30代の頃に知り合ったマルガリーテ・メリントン。長身でスマート、優雅で知的な彼女は売れっ子のピアニスト・劇作家で、何もかもテスラ好みでした。パーティでの出会い以来、珍しくテスラが彼女を食事に誘うなど好意をもったことは確かで、断続的な交友が続きましたが、結婚には至りませんでした。
テスラの火星は、衝突と逸脱を生みながらも、そのすべてを華やかな実験と独創性へと昇華させる力でもあったのです。
参考資料:[知られざる天才 ニコラ テスラ] 新戸雅章 著