ベル・ダ・コスタ・グリーン ― 出自を偽った女性司書

長く続いた「ウォール街の海賊」ピアポント・モルガンの記事が一区切りしました。息子のジャックは、ピアポントとファーストネーム・ミドルネーム共に同じ名前なので、モルガン・ジュニアなどと呼ばれていますがややこしいですね。二人を話に出すときは、モルガン・シニア、息子はモルガン・ジュニアと区別しなければなりません。今回は、ジュニアの記事に行く前に、ピアポントが晩年愛した謎の女性ベルについて見てみたいと思います。

ベル・ダ・コスタ・グリーン、彼女はピアポントの死後、息子のジャック・モルガンの図書館司書として勤務したのち、1924年にはピアポント・モルガン図書館の初代館長に任命されます。

彼女はベル・マリオン・グリーナーとして、裕福なアフリカ系アメリカ人の母親と、ハーバード大学に入学した最初の黒人学生であり、著名な教育者・外交官・人種差別撤廃運動家でもあった父との間に生まれます。

ベルはピアポントと、ピアポントの甥を通してモルガン図書館を生み出す運命的な出会いを果たします。彼女はそれまでに黎明期の図書館学に必要な目録作成、索引作成、筆記技術を学び、装飾写本に関する知識を得ていました。しかし20世紀初頭のアメリカにおいて、黒人女性が司書のようなキャリアや社交的地位を築くことは極めて困難でした。人種隔離政策の中、この頃からベルは黒人でありながら白人として生きること(Racial Passing)を選び、名前を変え、出身地を変え、黒人コミュニティからは距離をおき、自らの人生を演出していきます。それは生きていくため、自分の夢を実現させるための必要な手段だったのです。

ベルの出生日とされる日のチャートを見てみましょう。射手座の太陽に対して木星・天王星が両サイドに90度を形成しています。木星・天王星は思いがけない型破りな幸運に関係しますが、当時の銀行王と呼ばれたピアポントとの出会いはまさにそのものだったでしょう。彼女が司書としての地位を得たのはもちろん自身の努力と才能ですが、ピアポントとの関わりが肌の色の違いから個人的なことを詮索されることから守られたであろうことは想像に難くありません。

太陽は射手座5度。サビアンは「木の高いところにいる老いたフクロウ」フクロウが活動するのは夜。裏工作的な物事に関連する度数ですが、ベルが自分の出生の秘密を演出によってあいまいにしたようなところや、事実とは違った噂をあえて否定せず自己イメージのコントロールに利用したところにも関連します。

また、太陽は木星スクエアで関与しているというところが、経歴をベールに隠す工夫が必要だったことが読み取れます。木星はサビアンでは魚座5度「教会のバザー」。ただ何かを流通させるよりはそのものにイメージをつけ価値を持たせるという意味合いの度数です。これはベル本人が、黒人ではなく上流社会の白人というイメージを自分に持たせたことや、教会というシンボル自体もベルが神学校に通っていたことにも関連します。

太陽は父親のシンボルとしても読まれますが、両親の別居後、自分の経歴を隠すために生きている黒人の父親をパスポートの記載事項で死亡させたことも興味深いですね。太陽が幸運に恵まれつつも工夫を多く必要とするのに対し、出生時間は分かりませんが多分ここに関与する月・木星・土星・海王星の協調した関係は、父とは意識的に距離を置いても、自分と同じくアフリカ系でありながら比較的肌の明るい母や兄弟とは一緒にその出生を隠し関係を保ったのが対比として現れているようです。

彼女のチャートの中で目を引くのはやはり水星です。水星は情報や知識をつかさどる星ですが、自分の愛する装飾写本に情熱をもって司書として収集・管理し図書館を運営するまでになったその集中力と継続的なパワーが冥王星との150度の関わりとして現れています。また水星は双子座の支配星で競争などにも関与しますが、ベルはピアポントの代理として積極的にオークションに参加し、ピアポントに依頼されたものも含め狙ったものを競り落としていきます。

「私は12歳になる頃には、自分が希少本を扱う仕事に就きたいと確信していました。その頃から私は本を愛していたのです。本を見ることも、その素晴らしい手触りも、そこに宿るロマンも、胸が高鳴るような魅力も。」― ベル・ダ・コスタ・グリーン (1916年10月19日付 ニューヨーク・イブニング・サン)

ベルの装飾写本に対する思いは天秤座金星。チャートでは他の惑星との関わりが弱めに見えますが、ベルの金星は牡牛座冥王星とカウンターパラレル(黄道ではなく赤緯上の連携)の関係にあり、非常に強い力が相互に注がれます。ピアポント・モルガンは金星・冥王星が合でしたから、二人を結び付けた吸引力はここにあったのですね。この金星のサビアンは「逮捕された二人の男」。対人関係において、自分の認めた相手から多少迷惑やリスクを被る可能性があってもとことんつきあう大胆さと勇気に関係する度数ですが、ベルはピアポントが美術品の関税を回避するのを手伝っています。美術品にかけられる関税が嫌いなピアポントのために絵画、3つのブロンズ像、そして非常に高価な時計を運んでいることを税関職員に見つけられないように自分の荷物の中に課税対象となる品物をいくつか見つけさせうまく切り抜けます。ベルとピアポントは計画の成功後、戦いの踊りを踊って一緒に笑ったという話にこのサビアンの象徴が表現されています。

ピアポントが父を亡くした時に父との手紙をすべて処分してしまったように、ベルもピアポントが亡くなった時にすべて手紙などを処分してしまったし、元々自身や家族の生い立ちをあえて秘密にしておきたかった人ですから、彼女に関する事柄は多くの謎に包まれています。それでも欧米では非常に人気のある女性で多くの書籍が発刊されていますが、日本語訳では発刊されていないのが残念ですね。

彼女にとっては、自身の出生にまつわる秘密を守ることよりも、誰よりも自由に生き、自らと愛するものをどう社会に表現するかということこそが、生きる糧だったのでしょう。だからこそベルは、自らの過去ではなく、自らが選んだ人生そのものを後世に残したのかもしれません。

参考資料: WIKIPEDIA – Belle da Costa Green

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