
西洋占星術において月は心や幼少期、母親を象徴とする大事な天体ですが、他の惑星と違って出生時間がある程度分からないと月の位置が確定されません。テスラの出生時間ですが、マーガレット・チェニーの著書には、「テスラは7月9日から10日への真夜中に生まれたため、どちらを誕生日としていいのかわからず、ほとんど祝ったことはなかった。」と記されています。真夜中の0時でチャートを出すと、月は天秤座13度に位置します。
サビアン占星術では「正午の昼寝」。無意識から浮かび上がるものを解明する度数です。また、月の正面にある牡羊座8度の木星も「水晶を凝視する人」で、やはり潜在意識から詳細な情報を得るという象徴的なものです。テスラが数々の発明をインスピレーションから得たり、列車事故を起こす前に乗客を呼び止めて命を救ったりした予知能力もこうした象徴と無関係ではないでしょう。
この月が象徴するテスラの母は、何かと対立しがちな父(太陽と火星の反目)に対し、惜しみない愛情を注ぎすべてを受け入れてくれる存在でした。木星は社会的承認、拡大や肯定を象徴しますが、月と関わることで、幼少期に自己を肯定してくれる存在がいたことを示唆します。母デューカは無学でしたが、テスラはその聡明さに賞賛を惜しみませんでした。何よりも母はテスラを誰よりも深く愛し、その希望も夢も挫折もすべて理解していたのです。テスラは父親よりもむしろこの母親に強い信頼を寄せていました。
月と金星の対立軸に位置する木星を思わせる、印象的な母のエピソードがあります。
テスラの金星は海王星とゆるく関与しているので、金銭面での苦労が示唆されるのですが、お金に困ってギャンブルに手を出した時のことをテスラは手記でこう書いています。
「カード遊びを始めて、私はほんとうの意味での遊びを知った。模範的な生活を送る父は、私が時間や金をむだに使うことを許さなかった・・・・・[やめようと思えばいつでもやめられるが、天国へ行く楽しみを犠牲にしてまで続けたいと思っているこの楽しみを、むざむざ捨ててしまうのはもったいない]と、私は父親に言ったものだ。父は怒りやさげすみのことばをたびたび口にしたが、母は違っていた。母は、男とはどういうものかがわかっていて、人を救うことができるのは、当人の努力でしかないことを知っていた。ある日の午後、あり金を残らず使い込んで、それでもまだ遊びたくて仕方がなかったときのことだ。母は札束を手にして私のところに来て言った。[行って楽しんでいらっしゃい。どうせ家族の全財産をなくすなら早い方がいい。そうすれば早く立ち直れるわ]。母の言うことは正しかった。私の熱はすぐに冷めた……考えが変わったばかりでなく、ギャンブルをしたいという気持ちまできれいさっぱりと消えてしまった……」
金星と海王星の角度は調和していますが、この組み合わせは物質よりも理想やビジョンを優先してしまう傾向も強く、現実的管理は後回しになりやすい配置です。お金や物理的資産が海の泡のように消えてしまうという事も少なくありません。インスピレーションを受け取るにはこれ以上ない組み合わせなのですが……
過去の記事でも扱いましたが、テスラは人生において何度も金銭的困窮を経験しています。
●夢に向かってアメリカへ行くための旅費をかき集めたのにスリにあい、駅で切符と財布を取られる。
●エジソン社で直流発電機の改良を成功させたが、約束の5万ドルは支払われず、決別して退職。
●初めて設立したテスラ・エレクトリック・ライト社で、投資家と対立、追い出されたのち、その後の景気後退で手元の株券は紙くず同然になる。
●頭の中に浮かんだ発明が沢山ありすぎてメモも取らず、イメージの中で満足してそのままにしてしまったり、作った発明の特許を申請するのを忘れたりした。
●自分の研究所を火災で焼失。装置や備品、発明に関わる全ての書類も含まれており、保険もかけていなかった。
●同僚であり親友のジョージ・ウェスティングハウスの窮地を救うために貴重な収入源である特許を破棄。
●研究所の経営難にも関わらず、巨大投資グループからの無線計画への追加投資のオファーを断ってしまう。
果てしなく湧き出るインスピレーションは膨大にあったのですが、現実にならなかったものも沢山ありました。資金があればもっと形になったはずの発明は、一世紀を経て後世のテスラ・ファンたちによって今日も形にされつつあります。
月/天秤座の母の無条件の受容と、金星・海王星の幻想的理想主義。
テスラは深く愛されながらも、現実社会の金銭の荒波にはうまく適応できませんでした。
彼の人生は、愛と理想が現実と交差する壮大な実験だったのかもしれません。
参考資料:[知られざる天才 ニコラ テスラ] 新戸雅章 著 / [テスラ 発明王エジソンを超えた偉才] マーガレット・チェニー 著