
ここ数年でこそテスラの偉業は世に知られ、数々の発明を残した天才的偉人というイメージが定着しましたが、マーガレット・チェニーの伝記「Tesla:Man Out of Time(邦題:テスラ 発明王エジソンを超えた偉才)」が1981年に出版されるまで、学術・技術関係者以外の一般の人々にとっては怪しげでオカルト的なベールに包まれ、100年ほどは世間から忘れ去られていたのです。チェニーの伝記が出版された後、科学系の書籍やドキュメンタリーに取り上げられたり、インターネットの普及によって天才発明家という認識が広がっていきました。
今回はテスラを怪しげな奇人にしてしまったヒューゴー・ガーンズバックと、怪しげなイメージを払拭しその名声を地に降ろし正しい歴史的背景と事実を伝えたマーガレット・チェニーをご紹介します。
晩年のテスラを支えたのが、テスラの最大の賛美者であるヒューゴー・ガーンズバック。通販雑誌や科学雑誌の編集者として活躍したガーンズバックは1926年、最初に成功した商業SF誌「Amazing Stories」を創刊したことでも知られています。
1884年8月16日、ルクセンブルクに生まれたガーンズバックは電気工学を学んだ後、発明家への夢を胸に新大陸に渡りましたが、発明家としては成功せず、電気や無線の最新情報を扱う大衆向け科学誌で成功をおさめました。子供の頃からテスラのカリスマ性に強く惹かれていたガーンズバックが憧れの発明家と初めて会ったのは、渡米から4年後。マンハッタンの研究所を訪れた彼は、テスラに自分の雑誌に原稿執筆を依頼し、高名なSFイラストレーター、フランク・R・ポールにテスラの発明をもとにしたイラストを描かせましたが、その中には、ワーデンクリフのアンテナ塔の完成想像図も含まれていました。絵の中とはいえ、破壊された塔の完成像を見ることは、テスラにとって大きな慰めになったことでしょう。
その後もテスラのために極力誌面をさき、テスラもその予言的ビジョンを積極的に発表していきました。
ガーンズバックとテスラの金星が合(オーブ0.14)、火星の位置まで割と近いので金星・火星がスクエアで重なり、もともとテスラが持っていたスクエアにガーンズバックは水星の調停を持っているので、心安く意気投合したであろうことがわかります。テスラの趣味嗜好性にかなり近いものを持つゆえにテスラに心酔していたガーンズバックですが、太陽と海王星がスクエアなのでテスラの発明や先見性・奇抜なアイデアと共にテスラを怪しげなマッドサイエンティストに脚色してしまうことになるし、テスラ海王星の驚くべき直観とイメージ化能力やイマジネーションもガーンズバックの双子座月・土星によって安っぽいオカルト雑誌のネタになってしまいます。
テスラの伝記を出版したマーガレット・チェニーは、ネット検索では1921年3月28日と出てきますが、どのくらい確かなのかは不明です。もしこの日でテスラとのシナストリーを組むとテスラの社会的地位や名声をあいまいにする出生図の海王星に対して地位や実績を地におろし現実化するチェニーの土星が180度をかけています。その差0.14度。もし3月28日という彼女の誕生日が正確であれば、彼女の持つ太陽・冥王星スクエアとテスラの木星・土星・冥王星の小三角と重なります。まさにテスラの偉業をテーマとする組み合わせですが、彼女の書いたテスラの伝記本の最後に記載された参考文献の多さに、出版までの道のりは想像を絶する困難で果てしない作業だった事が推測できます。長いジャーナリスト経験を活かし、足を使って徹底的な取材と資料収集を行い、事実に基づいてその生涯を忠実に描きだし、失われた論文を求める彼女の足跡は、公文書館・図書館・資料館から軍関係の研究所、関係者の自宅にまで及びました。この彼女の筆・土星により、テスラは陰謀論をまとった超人でも、異端のマッドサイエンティストでもなく、逆境と戦い、真理を求めて苦悩し自らの光で世界を照らした一人の等身大の発明家として着地したのです。
チェニーの著書はテスラに関心を持つすべての人々に衝撃を与え、にわか研究者やファンを次々と誕生させ、世界各国で翻訳され新たな研究機運を盛り上げ、国際的な会議開催のきっかけにもなりました。
ところでテスラの出生図での海王星の影響力については前の記事でも触れましたが、その海王星の力はテスラという人物を捉え全体像をつかもうとする人にも影響を与えます。記事にするために形にしようと、両手でその実体をつかもうとすると、ふわりと消えてしまいます。それでも誰かが、土星を使って地上に引き寄せなければなりません。今までにも、チェニー以外でテスラに関する伝記やメディアがありましたが、テスラの実績の社会認知に大きく貢献したと言うには難しいところがあるようです。
では、チェニー以前のテスラ像はどのように語られてきたのでしょうか。
- ジョン・J・オニール「惜しみなき天才」(Prodigal Genius: the life of Nikola Tesla)
テスラの天才性や強烈な個性を示すエピソードをちりばめ、様々な陰謀に彩られた神秘的で孤独な天才というテスラ像は同書の影響が大きい。問題は資料の出典を明らかにしなかったことで、自伝や生前の公刊資料に典拠しているのは明らかですが、これに彼が直接見聞きした情報、推理、憶測などが加わって史実とフィクションの堺が不分明になってしまいました。また最初の伝記作者になろうとして書き急いだためか、事実誤認も多く、個人的思考からオカルト的エピソードが過剰なことなども問題点としてあげられます。
- 科学ライターのケネス・M・スウェジー。著作家としての能力は生前発表された短い評伝などからも伺えますが、まとまった伝記の刊行は諸般の事情から残念ながら果たせず。もし彼が周到なテスラ伝を上梓できていれば、陰謀論的な伝説の多くはチェニー以前に訂正されていたはずだったかもしれません。
- 1980年に公開された旧ユーゴスラビアとアメリカが合作の伝記映画「The Secret of Nikola Tesla」。ストーリーは多少の脚色はあるものの、ほぼ伝記に忠実で、世界公開されてもおかしくない佳作でしたが、諸事情から機会を得られませんでした。ユーゴ紛争の影響もあり、ビデオ化が遅れたのも惜しまれます。
テスラはその後のハリウッドの映画でも、テスラからイメージを得たサイエンティストが多く登場しています。クリストファー・ノーラン監督「The Prestige」での科学者をデヴィット・ボウイが演じ、ロバート・ゼメキス監督「Back to the Future」での科学者ドクをクリストファー・ロイドが演じています。映画もまた、海王星の象意のひとつです。怪しげでミステリアスなところもテスラの魅力のひとつなのかもしれません。
参考資料:[知られざる天才 ニコラ テスラ] 新戸雅章 著
[テスラ 発明王エジソンを超えた偉才] マーガレット・チェニー 著