銀行王、鉄道王、ウォール街のナポレオン等・・・数々の異名をとったピアポント。彼が当時の経済に与えた影響と金融事業を進めたやりかたを、冥王星を起点にしたYODとそれに絡む天体から読み解いてみます。
ピーボディから受け継ぎ、父ジューニアスとともに育ててきたモルガン商会が金融界で重要な地位を占めるようになると、ピアポントは資金繰りの支援だけでなく、企業同士の対立の調整や経営危機への対応を求められることが増えていきます。1880年代のアメリカでは、鉄道が増えすぎて過当競争に陥り多くの鉄道会社が値下げ競争で疲弊していました。ピアポントはこうした混乱の調整役を務めるようになり、後に「モルガニゼーション」と呼ばれる鉄道再編への第一歩を踏み出していきます。
なぜ彼は単なる銀行家ではなく、企業同士の対立を調停し、産業そのものを再編する立場へ向かったのでしょうか。その背景を出生図から見てみます。
ピアポントの持つ宿命YODの頂点は2ハウスの冥王星です。当時のアメリカの金融業界に秩序をもたらしたこの惑星たちの関わりは、月を内包しています。月は心理的なものの象徴であり、ピアポントが生まれながらに受け継いだ重圧をあらわしているかのようです。土星と冥王星の関わりは、まるで圧力鍋のように、限られた空間に圧力をかけることで何かを変容させ、新しいものを生み出しますが、これは惑星の関わりが協調的なものであっても苦しい体験になります。このYODに獅子座火星が冥王星に120度の協調をかけています。ピアポントは自分が生まれ持った能力をよく企業間調停に積極的に使いました。なかなか話合いで解決しない案件の調停には時間の制限をもうけ、当事者を狭い空間に閉じ込め、時には啖呵を切って心理的圧力を加えました。また、ピアポントは、競争を破壊的で無駄なこととみなし、その解決策として大規模な企業合同を本能的に支持していました。あるワイン・メーカーの経営者が業界のいろいろな問題について不満を述べたところ、それなら同業各社全部を買収したらよい、とピアポントは楽しそうに言ったという話もあるほどです。

1885年、ペンシルベニア鉄道はニューヨーク・セントラルのライバルとして並行路線を建設しており、両社は共倒れ寸前の激しい戦争状態になっていました。ピアポントは両社のトップを自身の愛艇・コルセア号に招き、仲介役となりその日の夜7時まで事実上軟禁し、契約書にサインするまでは船から降ろさせないと、とことん話合いと交渉をさせたのち、互いに相手の競合路線を買い取り破滅的な戦いはやめる、との合意をさせました。のちにこの話合いはコルセア号にちなんで海賊条約と呼ばれるようになります。ピアポントは、このとき48歳でしたが、これをきっかけにさらに後年、この種の仕事を裁判所や政府各委員会の手にまかされることになります。このアメリカでの<金融王の時代>と呼ばれたころは企業間の競争があからさまで、しかも無茶だったうえに各社が共通の問題を協議できるような業界団体がなかったので、銀行家が第三者として介入することができたのです。ピアポントは腕ききの弁護士たちをよく使っていましたが、それでも彼が好んでとった紛争調停のやり方は密約、ブランデーや葉巻を口にするくつろいだ雰囲気での握手、クラブの部屋でフロックコートと堅いカラーの正装姿で銀行家同士がする誠意ある立ち話などだったのです。交渉事にしっかりと演出を加え最大限の結果を引き出すのは獅子座火星が効いています。
このYODには冥王星の目的のために過重労働で消耗してゆくパートナーたちの存在も組み込まれています。モルガン商会の評判を一言でいうならば、紳士的なクラブとも洗練された人使いの荒い職場とも言えたでしょう。モルガン再編成の最中など、他のウォール街の各銀行の灯が消えても、ここの灯は遅くまで煌々とついていました。パートナーたちの肩にかかる仕事の負担は耐え切れぬほどで、「モルガン商会は、パートナー殺しでいつも有名だ」と新聞に書かれ、事実、犠牲者の数は着実に増えていきました。今の時代でいう過労死です。たとえば1894年のある日、パートナーのJ・フッド・ライトが退社後、高架鉄道の駅で倒れて58歳で亡くなります。最も痛ましかったのは、1900年3月にコスターが48歳の若さで亡くなったことで、風邪か肺炎で一週間足らずでぽっくり死亡。同情と怒りを交えて、ニューヨーク・タイムズ紙は、コスターの肩にかかった仕事の量が「常人の耐え切れぬほどに大きく増えた」結果だ、と非難した。また、過労で死んだモルガン社のパートナーたちを指して、彼らは「神経が疲弊する膨大な仕事、モルガン独特の経営方法の圧力、それにアメリカの鉄道資本の面倒をみるという重い負担に負けた。身を粉にする難行苦行を切り抜け、健康と活力と精気を保っているのは、最高神”ジュピター”・モルガンだけだ」と非難しました。
そんな批評もどこ吹く風で、牡羊座太陽のピアポントはきわめて慎しみなく、コスターの葬列が粛々と進んでいるかたわらで、ある鉄道会社の顧問弁護士にコスターの空席を進める話をしたりしています。ただ、モルガン商会のあくせくした仕事ぶりが世間でいろいろ物議をかもしたとはいえ、そこのパートナーになることは、金融界に身を置く誰にとっても一番の渇望の的でした。ピアポントの下で働くということは、このうえなく酷使される代わりに、富とアメリカ金融界での高い地位を得ることを保証されたのです。彼らパートナーたちは、YODに組み込まれた月のように私生活や健康を犠牲にしながら、土星・冥王星が求める巨大な事業のために働きました。その代償として金星・冥王星が象徴する富や社会的成功を手にしたのです。
参考資料:[モルガン家 金融帝国の盛衰㊤] ロン・チャーナウ 著