モルガン財閥という巨大な金融帝国をピアポントから引き継いだ息子のジャックは、モルガン家の長男として生まれ、財閥を継承します。彼は第一次世界大戦では連合国への巨額融資を担い、20世紀前半の国際金融に大きな影響を与えました。ピアポントのようなカリスマ的で時代を動かすような伝説的な人物ではありませんが、世界最大級の投資銀行グループの経営を引き継いだジャックの、幼少期のエピソードから彼の人生を追ってみましょう。
当時のマーチャント・バンクは、一族の名声や信用によって成り立つ家業であり、男子の後継者がその責任を担うことが求められました。ピアポントがそうであったように、家業を継ぐことへの強いプレッシャーは、父と息子の関係にも影を落とし、両者の緊張を一層深めることになりました。
ピアポントが父ジューニアスのかまいすぎを時には息苦しく感じたのに対して、ジャックは逆に、父ピアポントからほったらかされるという苦しみを味わいます。父親から愛してもらいたかったけれど、自分とはかけ離れた父はいつも仕事に専念しすぎていて、自分の望みなど顧みる暇がないようでした。ふたりの間には、いつも何らかの距離、何とも言いようのないよそよそしさがあったのです。心が繊細で自己評価の低いジャックにすれば、ぎらぎら目を輝かせ、機関車みたいに邁進していく有名な父親にはついていけませんでした。
無鉄砲で、わがままで、しっかりと祖父から手綱をつけられる必要があった父とは違い、ジャックはくじけがちな勇気や心を父に支えて元気づけてもらう必要があったのですが、ピアポントはそうしてはくれませんでした。
ジャックの月は山羊座の8ハウスにあります。山羊座の支配星は土星、8ハウスの支配星は冥王星ですから、生まれながらに重すぎる重圧を背負っています。この月は蟹座の天王星と180度ですから、まるで外側から自分の家や家族を眺めるようなよそよそしさがいつもそこにあり、本来であれば愛情にみちた蟹座の水の世界が天王星の風によって乾かされ、両親との距離感を常に感じることになります。
それでも水星・金星期の頃は蠍座の土星とジャックの水星・金星が60度で協調しています。父親ピアポントとの距離はあっても、尊敬する祖父や母とは仲が良く、ジャックは格式ある英国風の祖父の家を訪問するのが大好きでした。また、特に自分と性格が似ていた母ファニーを愛し心から慕っていました。少年時代のジャックは甘えん坊で、母親への手紙で「一週間足らずでお会いできるかと思うと、嬉しさで一杯です」と書き送っているほどです。1878年頃からピアポントの海外旅行に母は同行しなくなります。それからというもの、毎年夫婦が何ヵ月も別々に過ごす習慣ができ、ピアポントにとってはヨーロッパ旅行は仕事と楽しみを兼ねたものだったので、旅行を口実に彼が不貞を働くこともありました。別居生活が長びいても、公の場では妻である母の体面をきちんと守りましたが、年月が経つうちに母が病床に就くようになると、ジャックは懸命になって元気づけました。お互いにふさぎ込みがちなのがよくわかっていた2人は、J・ピアポント・モルガンというまったく謎の人物に等しく悩みながら、慰め合って40年間を過ごします。
ジャックは、控えめでおとなしく、破天荒だった父と比べると普通で常識的でした。心優しく弱者を気遣う気風があり素直だったジャックは12歳のころ既に中年男のような話し方をしていたそうです。彼は乙女座の太陽・水星・金星とドラゴンヘッドが合、山羊座の月とトラインで協調しています。

乙女座は土のサインですが、派手さはなくても仕事や対人関係において非常に慎重で誠実な対応と心配りができるのが特徴です。乙女座はスケジュールや予定を乱されるのを嫌いますが、ジャックは海王星が牡羊座にあり、乙女座の太陽と150度をかけています。これは、まったく異質なものが、関わりたくなくても入り込んでくることを表しますが、この海王星に重なるようにピアポントの金星・冥王星があり、お金の管理についてジャックは異様なまでに神経質で、金銭面とピアポントに対して強い恐れを抱いていました。お金については一族の間でしてはいけない事柄が多くあり、とりわけ神経をとがらせ自分の使ったお金をきちんと記し、学校の図書館の罰金10セントまでこと細かに記録しています。話題がピアポントとお金のことにぶつかるといつも、びくびくしていました。「パパはお金のことで話に来られるのをひどく嫌うから、この代金を払って欲しいなどとほのめかすことは決してなかった」と母親に語り、こうした気持ちは彼の少年時代の手紙の中にふんだんに見てとれます。
ジャックにとってピアポントという父はいつも自分のことしか頭になく、移りげで感情が激しく、見るからに怖くて足元にも寄れない相手であり、反抗する勇気などありませんでした。ジャックが母に当てた多くの手紙では、父に振り回された上にがっかりさせられるという事を書いていますが、興味深いのは彼が自分自身と母ファニーの二人をともにピアポントの犠牲者として書いていることです。父を恐れていたジャックは、それでも父から少しでも色よい返事を受けると、いつもほっと安心し感謝し、喜んだものでした。「パパが僕の話を聞いてくれた嬉しさ、僕がパパに打ち明けた満足感は何と言ったらよいかわかりません。これで数カ月来の憂うつさがなくなりました」と母あての手紙に書いています。
ジャックのチャートの中の個人天体は母を含めた調和した優しい世界であり、トランスサタニアンという3つの超越天体は彼にとって予測のつかない絶大な力を持つ支配的な父であり、同時に憧れの対象で手の届かない存在でした。世界最大の金融帝国を受け継ぐことになる少年は、この時まだ、父の愛情を求め続ける繊細な息子にすぎなかったのです。
参考資料:[モルガン家 金融帝国の盛衰㊤] ロン・チャーナウ 著