J・P・モルガン⑩ ― 牡羊座金星と海賊の恋

ウォール街の海賊と呼ばれたジョン・ピアポント・モルガン。今回は彼の金星から恋愛やロマンチックな側面を読み解いてゆきます。

ピアポントのロマンチックな愛情は、当時ではまだ珍しかった恋愛結婚の相手となったミミですが、残念ながらミミについては社交界に出入りしていた裕福な商人の娘という事しか分かりません。結婚したのち結核で半年もたたないうちに亡くなってしまいます。ピアポントの海王星は12ハウスという形の無い世界にあります。この海王星は恋愛の象徴の金星とクインタイル・72度の関係を持ちますが、金星・海王星は美しいものへの憧れや美的演出にも関連します。海王星が12ハウスにあることで、儚げな美や手に入らない恋に身を投じる傾向が強くなりますが、出会った時から結核を患っていたミミはこのピアポントの金星・海王星をそのまま表現しているかのよう。金星と、生と死の意味を象徴する冥王星も同じ場所にありますから、金星に関する事柄が極端に振れやすくなります。結婚した日にはトランジットの海王星と火星が、冥土の扉を開くかのように春分点と秋分点を180度に貫いています。あちらの世界へと最愛の妻を送り出すように地中海沿岸の旅行に連れ出し各国を回るという演出も72度に関係しています。

ピアポントはその後、父親の勧めで結婚するもミミのことがずっと心から消えることはありませんでしたが、彼は元々自分の中にある妻像と恋人像にかなりギャップのある人ですから、二人目の妻ファニーとは人生においてなかなか歩調を合わせることは難しかったのです。ピアポントは、愛情のない結婚を甘受できるような性格ではなかったので、ミミに捧げた純愛でわかるように、非常にロマンチックな性格でした。ミミと結婚した日や死んだ日には、毎年コネチカット州フェアフィールドまで行って、その墓参をしたほどでした。人を寄せつけないときの彼は、誰とも分かち合えない深い絶望感を一人で持ち歩く孤独な人でした。2度目の結婚生活がかくも不幸であったがために、彼はビジネスの成功の楽しみを味わうことも拒否して、一層深く仕事にのめり込んでいきますが、人生においてやはり金星は喜びやときめきに関する星であり、人はそれなしでは生きていけません。ミミがいなくなった世界で、ピアポントはミミに替わる海王星的な美しい幻想や癒しをコーセア(海賊)号での船旅や美術品の収集という形で昇華してゆきます。

収集品の目録づくりをするために、ピアポントは1905年、ベル・ダ・コスタ・グリーンという若い美女を雇います。彼女は音楽教師だった母親と二人暮らしで、大学教育も受けていませんでしたが、プリンストン大学図書館の稀覯本についての知識でピアポントの甥をびっくりさせたほどの人物でした。肌色は浅黒く魅惑的で、緑色の瞳を持ち、浅黒い肌のことを「ポルトガルの出身」と自称していましたが、恐らく黒人の血が一部入っていたでしょう。やがて彼女はピアポントの文庫係以上の存在となり、彼の腹心の友、心の通い合う仲、ひょっとすると愛人でもありました。彼女はピアポントに、ディケンズの小説や聖書を読んで聞かせたりし、1907年の恐慌の最中には文庫での徹夜の協議の席でピアポントに付き添ったりもしていました。

ピアポントとベルとの相性では確かに恋愛配置の惑星の絡みがあり、ピアポントの牡羊座金星としての恋の対象にはちょっと負けん気の強い女性像という雰囲気がありますが、ベルはまさに生意気で小悪魔的で、その意味においてはベルに勝るものは他にいませんでした。ある大物木材商が結婚を申し込んだところ、彼女は「私が50歳を迎えてから、すべての結婚申込みをABC順によく考えて決めるわ」と答えたそうです。また、大胆にも裸体画のモデルになったりして、自由奔放な生活を楽しんでいました。ハリマン一族やロックフェラー一族からももてはやされた社交界の花形でしたし、モルガンの使いで海外に旅したときは、ロンドンではクラリッジ、パリではリッツなどの一流ホテルに滞在しました。彼女は、ザ・ピアポント・モルガン文庫の館長になっても、自分を引き立ててくれたピアポント同様に謎に包まれた存在であって、公衆の前に出て講演することなど決してありませんでした。そしてピアポントが1950年に亡くなる前に、父の手紙をすべて燃やしたピアポント同様に、ピアポントとの手紙類と日記をすべて焼却してしまいました。

ピアポントとベルは46歳差でしたが、それでもピアポントは自分の愛情を隠すことも無く、ベルが著名な美術評論家で鑑定家のバーナード・ベレンソンと4年越しの恋に落ちたとき、ピアポントは自分の嫉妬心をかき立てないよう二人の関係を秘密にして欲しい、と彼女に頼んでいます。彼女は文庫の主として君臨し、ピアポントの代理で美術品オークションに出席していましたし、ピアポントとの間の46歳の年齢の差は問題にならなかったようです。恋は若い男女だけのものではなく、お互いの星がかみ合えば歳の差は実は関係ありません。でも、ピアポントとベルの間にはいわゆる男女の性愛を超えて惹かれあう磁力もあったのです。

2人のチャートを組み合わせると、YODという特殊な宿命の三角形の一角にリリスという月の軌道の遠隔地点が入ります。リリスは無意識下に眠る欲望やタブー、隠されたセクシャリティと関連しますが、ピアポントの眠れるリリスにベルの冥王星がピアポントの知識や情報を表す3ハウスに入り、リリスと関係を持ちます。YODの頂点は水星なので、現在のThe Morgan Library & Museumが生み出される宿命と、それを作り上げる上での二人の禁断で秘めた関係が絡み合います。

ベルはピアポントの死後、「あの人は、私にとって父親みたいだった。私に対するあの人のつねに変わらぬ思いやり、理解、そして大きな寛容と信頼は、年齢、富、地位などあらゆる差を埋めた」と語っています。

結局、ピアポントは、当時の個人としては最大の美術品コレクションをつくり上げました。その中には、ナポレオンの使った懐中時計、レオナルド・ダ・ビンチの手稿などを筆頭に非常に貴重な美術品が揃えられました。印象派や近代アメリカ画家の絵画など念頭になく、長い歳月に選り分けられて残った、長い歴史と言い伝えを持つ、ヨーロッパの美術品をもっぱら愛して集めたのです。ピアポントのようなオールド・マネー(伝統的な金融業者)は、オールド・マスターズ(18世紀以前のヨーロッパ巨匠の絵画)や精巧で貴重な工芸品を好んだわけですが、それでも絵画はコレクション全体のわずか5%ほどにすぎませんでした。装飾美術品を中心に収集した点で、ピアポントは、ロスチャイルド家やメディチ家などマーチャント・バンクの雄たちの前例に従ったわけで、自分の収集品を自慢してコレクションの目録をつくっては、ヨーロッパの各王室に配っていました。ベルは、ピアポントの死後5万ドル(現在の約1億円)の遺贈を受けています。

参考資料:[モルガン家 金融帝国の盛衰㊤] ロン・チャ―ナウ 著

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